東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)56号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の特許請求の範囲)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いない甲第二号証の二(昭和五五年七月一日付け手続補正書中の明細書。以下「明細書」という。なお、同号証の三(昭和五五年九月二二日付け手続補正書)、同号証の四(昭和五八年四月二一日付け手続補正書)、同号証の五(昭和五八年五月五日付け手続補正書)及び同号証の六(昭和六二年一二月二三日付け手続補正書)による細かい字句の訂正は、引用箇所の摘示を省略する。)によれば、本願発明は、夜間に自動車を運転する場合、急カーブあるいはS字カーブにおいてハンドルの回転と同時にヘツドライトの焦点が運転者の視野に向かわないので危険であり、また、大型自動車を運転し左折する場合、内輪差によつてバツクミラーに死角が現れ危険であるとの知見に基づいて(明細書第一頁第一一行ないし第二頁第三行)、ハンドルの回転に連動してヘツドライトの焦点又はバツクミラーを所望の方向に誘導し得る装置を提供するために、特許請求の範囲に記載されているような構成を採用したものであるが(昭和六二年一二月二三日付け手続補正書第二丁第一行ないし第九行)、自動車のハンドルの回転には遊びがあるので、この遊び角を超えた回転角度においてのみ誘導装置が作動するように構成することを技術的課題としているものと認められる(明細書第二頁第八行ないし第一三行、第三頁第二行ないし第五行、第四頁第三行ないし第一一行)。
2 拒絶理由<1>について
明細書第二頁第一三行ないし第一九行、第三頁第一一行ないし第四頁第三行及び別紙図面第1図によれば、本願発明のピニオンギイア2はハンドル軸1に設けられ、ハンドル軸1の回転がピニオンギイア2及び遊星ギイア3を介して円筒パイプ4の内側の歯に伝えられ円筒パイプ4を回転させること、ピニオンギイア2の歯数を一〇とし円筒パイプ4の内側の歯数を一〇〇とすれば、ハンドルを最大に回転したとき(すなわち、二回転半したとき)円筒パイプ4が九〇度回転することが模式的に開示されていると認められる。
しかしながら、明細書及び別紙図面第1図には、遊星ギイア3及び円筒パイプ4の具体的構成、すなわち、それらを何によつてどのように支持するのかの点は全く記載されておらず、結局明細書及び別紙図面の前記記載は、本願発明の遊星ギイア3及び円筒パイプ4について、当業者が何ら設計的努力をすることなく容易にその実施をすることができる程度に構成を明らかにしているものといえない。
この点について、原告は、遊星ギイア3の中心には図示されていないが軸があり同ギイアがそれに支持されていることは慣用技術であると主張するが、仮にそうであるとしても、その軸自体が何によつてどのように支持されるべきかは依然として不明であるといわざるを得ない。
したがつて、拒絶理由<1>に係る原告の主張は失当である。
3 拒絶理由<2>について
明細書第二頁第一九行ないし第三頁第一〇行、第四頁第九行ないし第一二行及び別紙図面第2図によれば、円筒パイプ4の外周面に上部斜めミゾ、水平ミゾ及び下部斜めミゾから成るミゾ7が形成され、このミゾ7に、作動ノブ器具5に連なるノブ6が係合されること、作動ノブ器具5のノブ6とは反対側に、図面において斜線を描いてある部材が連なり、かつ、その斜線を描いてある部材はプレート8に接していること、ワイヤー9の一端が斜線を描いてある部材に連結され、ワイヤー9の他端はヘツドライト10(又はバツクミラー11)に連結されることが模式的に開示されていると認められる。
そして、前記の本願発明の技術的課題を勘案すると、ノブ6は、ハンドルの回転が遊びの範囲内にとどまる間はミゾ7の水平部分に係合し、遊びの範囲を超えてハンドルが回転したときにのみミゾ7の上部斜め部分あるいは下部斜め部分に係合することが企図されているものと考えられ、この点が正しく本願発明の構成の核心を成すというべきである。しかるに、明細書ないし別紙図面第2図の記載によつては、ノブ6(あるいは作動ノブ器具5、若しくは斜線を描いてある部材)のどの箇所をいかに支持すれば右のような係合状態を実現し得るのか全く解明することができないのであつて、この点は単なる設計事項の範囲を超えるものといわなければならない。
のみならず、明細書及び別紙図面第2図には、ワイヤー9がどのような状態で、斜線を描いてある部材とヘツドライト10(又はバツクミラー11)とに配置され連結されるのか記載されていないから、たとえ原告が主張するようにハンドル操作に伴つて円筒パイプ4が回転しノブ6が上方あるいは下方へ動くものと仮定しても、そのノブ6の動きをワイヤー9を介しどのように伝達すればヘツドライト10(又はバツクミラー11)に所望の動きを与え得るのかの点も不明である。
したがつて、明細書及び別紙図面の前記記載は、ノブ6からヘツドライト10(又はバツクミラー11)に至る構成及びその作用効果を、当業者が何ら設計的努力をすることなく容易にその実施をすることができる程度に明らかにしているということはできない。
この点について、原告は、ノブ6の異なる動きをワイヤー9に伝えることによつてヘツドライト10等を左右に動かすことは当業者にとつては自明の慣用技術であると主張するが、別紙図面第2図には、ワイヤー9が三本でありそれらが平行の状態のまま、斜線を描いてある部材とヘツドライト10(又はバツクミラー11)とを連結していることが極めて模式的に示されているのみであつて、そこからは採るべき具体的手段について何ら示唆を得ることができず、ほかに原告が指摘する事項が慣用技術であることを認めるに足りる証拠はない。
したがつて、拒絶理由<2>に係る原告の主張も失当である。
4 以上のとおりであるから、本願明細書及び願書添付図面の記載は特許法第三六条第三項に規定する要件を満たしていないとした審決の認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
自動車のハンドル軸1にピニオンギイア2を設け、このハンドル軸回転を遊星ギイア3によりハンドル軸外部を覆う円筒パイプ4に伝え、この円筒パイプには上部斜め7と下部斜め7を含むミゾを設け、このミゾにヘツドライト10又はバツクミラー11の移動を特徴とする、ヘツドライト焦点又はサイドミラー誘導装置(別紙図面参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面
<省略>
<省略>